CUERDAS DEL ALMA
2010 SONY-BMG España
『魂のストリング』
2010年 SONY-BMG スペイン
2013年 プランクトン(日本盤)
私たちは誰もが、魂に弦を持っています。そして私たちが日々の生活の中で感じる、悲しみ、喜び、希望、愛などの感情が、その弦を奏でるのです。
このアルバムの音楽が、皆さんの魂の弦を奏でますように。そしてその音色は、私たちを幸福へと導いてくれる美しい音色でありますように。
カニサレス
旅において、行きのルートと帰りのルートは、必ずしも同じとは限らない。しかしこの2つのルートが交わる時、それは旅慣れたものにとって、旅の醍醐味とも言える刺激になることがある。フアン・マヌエル・カニサレスは、そうした旅人のひとりだ。しっかりとした音楽的ルーツを持ち、それをギターで自在に操る。彼を取り巻く世界で起きる全ての事に好奇心を持ち、それを自分の世界に取り込んでいく類希なアーティストである。彼の超絶なテクニックは、彼の創造力を自由に、そして巧みに具現化していく。彼の演奏を聴くと一瞬にしてそれが分かる。カニサレスの音楽探究には国境がない。スペインのクラシック音楽の真摯な研究は、アルベニスの『イベリア組曲』のギター編曲という形で発表された。音楽の本質を見失う事なく、フラメンコらしさが随所に鏤められた素晴らしい作品である。新たな地平線を旅していく中で、カニサレスはマウリシオ・ソテロのような現代音楽の作曲家との共演も実現していく。楽譜の中に閉じ込められたダイアログを、絶妙な形で音楽に変えていくカニサレスの手腕は、ガルシア・ロルカの詩にインスピレーションを受けた作品でも発揮された。
様々なジャンルで活躍を続けて来たカニサレスは、その経験をたくさん詰め込んだリュックを背に、再びフラメンコの伝統的なスタイルに戻ってきた。しかし、それは過去へのステップバックではなく、これまでに培って来た豊かな経験を、未来に投影させる大きな1歩である。彼の演奏方法は繊細で、澄みきった音色はまるでガラスの海のようである。とどまることなく広がり、激震が走ったかと思えば静寂が訪れる、そんな透明なガラスの海である。「ガラスの海(Mar de Cristal)」というのは、マドリードの地下鉄の駅の名前にもある。この駅で、世界を目指す旅人達はマドリード国際空港行きの列車に乗り換え、また、広い世界での体験を胸に、家路を目指す旅人で溢れる。そんなメタファーも併せて、彼のこの新しいアルバムを「ガラスの海」と呼ぶのは決して的外れではない、と私は思う。彼のかき鳴らす魂の弦は、カスタネットを伴った『鳩』を自由に舞わせ、静かに流れる『時に憧れ』を抱き、その理想郷は常に遥か未来を見つめている。このアルバムは、並外れたギタリストとしてのカニサレスの才能を充分に堪能出来る作品であり、ラファ・ビジャルバ、イニゴ・ゴルダラセナ、アンヘル・ムニョス、チャロ・エスピーノといった、彼を取りまく素晴らしいアーティスト達の活躍も見逃せない。類は友を呼ぶと云うが、その良い例だと思う。
フアン・アンヘル・ベラ・デル・カンポ
ローマ・フラメンコ・フェスティバル芸術監督