私は随分前から、マヌエル・デ・ファリャの作品を編曲したいと思っていました。ファリャの音楽には、意外なハーモニーとメロディーに溢れていて、私の持つフラメンコ観にとても近いものがあると常々感じていたからです。ギターで演奏することよって、ファリャの作品に深みを与え、彼が作曲する時に影響をうけたフラメンコらしさを、更に引き出す事が出来るのではないかと考えたのです。

ギター編曲によるファリャ３部作の、第１作目となるこのアルバムには、『三角帽子』『７つのスペイン民謡』『４つのスペイン小品』を選曲しました。『三角帽子』の多くの舞曲は、ミゲル・リョベートやエミリオ・プジョルなどの巨匠達の手による素晴らしいギター編曲が存在します。私が今回手がけた編曲と演奏では、ファリャの作品の中に眠るフラメンコのエッセンスを最大限に引き出す事を心がけました。

オーケストラの原譜を分析し、なるべく沢山のメロディーラインを忠実にギターで再現しました。そのため、複合リズムや対位法が多用された『終演の踊り』では、４本のギターが必要になるほど、私にとって難しい挑戦となりました。

オーケストラやピアノの為に書かれた作品をギターに編曲する際に最も難しいのは、幅広い音域で演奏されるこれらの音楽を、どのように音域の狭いギターで演奏するか、という点です。通常は、オクターブ上げ下げすることで音域を調整します。しかし今回は、原譜の音域の豊かさを再現する為に、私のフラメンコ・ギターの第４・５・６弦を、１０弦ギターの低音弦（８・９・１０弦）に替えてみました。これにより、通常のギターより１オクターブ低い音まで出す事が可能になり、音楽に更なる深みを与える事ができました。この特別仕様のギターの音色は、『７つのスペイン民謡』や『終演の踊り』で聴く事ができます。

このアルバムでの私の演奏は、非常に主観的なもので、私なりのファリャの音楽の解釈です。彼の音楽に深い愛情と大きな敬意をもって取り組みました。フラメンコ・ギターによって演奏された、スペイン生まれの、そして世界に通用する、この偉大な作品の数々が、私と同じように音楽を愛する多くの方々の耳に届く事を願ってやみません。

２０１３年１１月

フアン・マヌエル・カニサレス