El Mito de la Caverna
2018 JMC Music Productions
『洞窟の神話』
2018年 JMC Music Productions
2018年 プランクトン(日本盤)
プラトンの「洞窟の神話」は、私がフラメンコの音楽を作曲する時に感じる気持ちや姿勢に非常によく似ています。私は子供の頃から現在に至るまで、自分の中には音楽的な2つの柱が存在しています。ひとつはフラメンコの伝統という柱、そしてもうひとつは楽典を学ぶことによって身につけられる音楽的な知識です。
私が育った環境には、常にフラメンコが身近にありました。私の両親はフラメンコを歌っていたし、兄はフラメンコギターを弾いていました。私にとってフラメンコは普段の生活の中に存在する、ごく自然なものでした。それは、息をするのと同じくらいに無意識的に、そして家族や社会の伝統とともに常にそこにありました。
フラメンコの伝統は私にとって、プラトンの比喩でいう洞窟の中の影のような存在でした。その柔らかな光と神秘的な音は、伝統という河を流れて私のもとにたどり着きました。それは、豊かで深い表現を備えた言語であり、私にとってかけがえのないインスピレーションの源となりました。フラメンコの音楽を始めてから数年後に、音楽院で音楽の基礎を学ぶことによって、先の比喩でいう太陽の光の言語を手に入れることができました。この新たな音楽的知識を身につけることにより、新しい音楽の世界を旅することができるようになりました。これまでに編曲し演奏してきた、アルベニス、ファリャ、グラナドスやスカルラッティの作品から得た経験が、私の音楽的な視野を広げてくれたことは言うまでもありません。
それゆえに、私がフラメンコの音楽を作曲する時には、常にこのふたつの言語、ふたつの世界をいかにバランスよく取り入れるかという内なる葛藤があります。音楽的知識は、太陽の眩しい光のように世界を明るく照らしますが、それをそのまま影の世界に持ち込んでは、洞窟の中にあふれる柔らかな光の世界を壊しかねません。
この尽きることのない、クラシック音楽の光とそれにコントラストをなすフラメンコとの光の調合こそが、私が追い求めるフラメンコへの敬意であり、私の故郷と伝統へのオマージュなのです。フラメンコを愛する人々や私自身が、本物だと感じるフラメンコの本質を失うことなく、フラメンコの音楽的表現をより豊かにするために、インスピレーションと知識を融合させることが、私の強い信念です。
このアルバムでは、光と影のふたつの世界のバランスを保つことをひとつの目標としました。クラシック音楽やフラメンコ音楽、そしてその他の多彩なジャンルの音楽に精通する人たちが、この作品を楽しんでくださることを願ってやみません。
2018年1月
フアン・マヌエル・カニサレス