マドリードのイタリア文化センターでは、２０１１年よりスカルラッティのソナタを扱ったコンサートシリーズを主催しており、素晴らしいアーティストであるフアン・マヌエル・カニサレス氏の賛同を頂ける事となりました。私は、高い次元での音楽の未来は、異なるジャンル間のある種の融合に委ねられている気がしてなりません。一見相反するもののように見えるかもしれませんが、それは反発し合うのではなく、お互いの良いところを補い合うのです。偉大なカニサレス氏は、まさにその良い例と言えます。彼は、ギターの演奏家ですが、単にギタリストという枠に収まり切る事のない、広い意味での音楽家です。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と見事な『アランフェス協奏曲』を演奏した経験もあれば、フラメンコの『ブレリアス』で驚愕の即興演奏をも披露してくれます。

このスカルラッティに捧げられたソナタのアルバムは、彼の惜しみない研究の成果であり、彼の指を通じて、過去の音楽を現代の芸術、生きた音楽として蘇らせることに成功しています。壮大なファリャの３部作を発表した後、カニサレス氏は、巨匠という名にふさわしいこの作曲家の作品と向かい合ったのです。スカルラッティは、当時のスペイン民謡を、まるで戯れるかのように巧みに自分の作曲に取り入れ、イタリアのナポリ生まれの気質を失う事なくハーモニーを紡ぎ出し、今日の西洋音楽の頂点のひとつと呼ぶにふさわしい遺産を我々に遺してくれました。

カニサレス氏は、臆する事なくこの壮大な作品に挑み、ソナタ集の中から選りすぐりの楽曲をギターに編曲しました。哀愁の漂う『ソナタ第３２番 ニ短調』から、爽快な『ソナタ第１１１番 ト短調』、そしてソナタの中でも秀逸な作品のひとつといえる『ソナタ第２０８番 アダージオ・エ・カンタビレ』や『ソナタ第３８４番  カンタビレ・アンダンテ』、もちろんポリフォニックな名作『ソナタ第２７４番 アンダンテ』も忘れてはいません。

カニサレス氏の演奏するスカルラッティは、作品の威厳を失う事なく、表情豊かに、当時のスペイン人達が愛した様々な色彩と音色で奏でられています。

２０１４年６月

マドリードイタリア文化センター館長

カルメロ・ディ・ジェナロ